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「若水迎え」村田善子
元旦のまだ暗いうちに、お餅やお米を水神や井戸神に供え、井戸から水を汲んでくる行事のことを「若水迎え(わかみずむかえ)」といいます。
かつてはこの水で家族の食事を炊き、またお茶をたてて飲む習慣がありました。家族中が新年の凜とした空気の中で気持ちを正していた風景が浮かんできます。
水道が普及し井戸へ水を汲みに行くこともなくなった現在では、この行事はほぼなくなってしまいました。でも、せめてその気分だけでも拝借したいと、元旦の朝に目覚めて初めて口にする水やお茶に、少しばかり心を研ぎすまして扱い、飲む。体中で一年のはじまりを迎え入れる。
ひんやりした冷たい水をスーと体に通すのか、もしくは丁寧にいれたお茶をじっくり味わうのか、それはその時の心境で。
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「食事の功徳」太瑞知見(P,16)
お正月は気分も一新。お天道様もひときわ神々しくみえる特別な朝です。そしておせち料理に舌鼓を打ちながら、改めて日本の食文化の豊かさを思います。
昨年末には「和食・日本人の伝統的な食文化」が、ユネスコ無形文化遺産に登録されました。和食の特徴である「うまみ」は、英語でも「umami」と表記されるほど日本独自の食文化です。
多様で新鮮な食材、世界でも類をみない発酵食品や乾物がおりなす料理、自然の美しさや四季のうつろいを表現した盛り付けなど、多種多彩な日本食は、私たちの大切な伝統です。一節によれば、郷土料理を含めると、日本食には四千種類以上のレパートリーがあるとか。
今年は日本食を見直して、好きな人や気の合う仲間と一緒に、楽しく美味しい食事をたくさんいただきましょう。今年まるまる、みなさまにとって、美味しく幸せな一年になりますように。
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「食べものの記憶」青木千恵(P,18)
お正月は一年のはじまりを祝い、さまざまな願いを込めておせち料理をいただく時節だ。
1965年度に73%だった日本の食料自給率は、2012年度には39%に低下し、輸入に頼りつつ多くの食べものが国内に流通している。消費者の口に入るまでに複数の業者が関わり、、食べものをめぐる事件が起こるようになった。
昨年秋、高級おせち料理の食材が何年にもわたって偽装されていたことが発覚して、注文のキャンセルが相次いだ。また食をめぐる事件は、ホテルや百貨店でも食材の「偽装」が行われていたと分かり、芋づる式に広がっていった。
注目をひこうと、世の中には宣伝文句があふれている。「名門」や「大手」が信頼できない場合、何を判断材料にしたらよいのだろう。「口コミ」はどうかというと、一昨年に口コミを掲載するグルメサイトで「やらせ」が発覚している。何より匿名の書き込みは情報として曖昧だ。
結局のところ自らの感覚を育て、物事の善し悪しを見わける力を付けていくことだと思う。何気ない普段の食卓は、ブランドとは無縁でごまかしがきかない。その人自身の感覚は、平素の生活を通して養われる。